[CN |
DE |
EN |
FR |
JA |
ES |
KO |
PT |
ZH]
Brave GNU Worldのまた別な号へようこそ。 マス・メディアの注意をほとんどひくことのなかったために (それゆえマス・メディアにとっての重要性も知れたものなわけですが)、 多く読者のみなさんに初耳になるであろう、 今、 起こりつつある最新の政治的できごとに、 今回、 焦点を当てます。
政治の話に入る前にひとつだけ、 技術的プロジェクトであるフランスのSylvain NahasによるUDPKIT [5] を紹介しておきましょう。 UDPKITは、 小さいかもしれませんが、 けっこういかしたコマンド行ツールで、 ネットワークの上へIP/UDPで文字列を送ることができます。
ネットワークの取扱いに長い時間をかけることのない読者のために、 簡潔な紹介をきっとしておくべきでしょう。 ネットワーク上のデータ伝送でもっともおなじみのプロトコル (通信手順) には、 TCPとUDPがあります。
TCPとは、 「伝送制御プロトコル」の略で、 2つの端点の間に専用の回線がつくられ、 使われ、 切断される、 という意味で、 接続指向のプロトコルです。 このプロトコルの長所には、 伝送障害などの場合に備えた再送手段による、 信頼性があります。
UDPは、 「利用者データグラム・プロトコル」で、 非接続のプロトコルです。 UDPで送るデータ伝送は、 制限のない数の受取手に読み取られ得ますが、 このプロトコルでは、 データがどこかに届いたかどうかを確実にする手段が、 ありません。
明らかにこれで信頼性は低くなりますが、 とある状況では長所があるのです。 たとえばSylvain Nahasは、 内部ネットワークをもっていて、 キーボードとモニターのない機械もそこにあります。 その機械は、 たまにしかつかないのですが、 職場の機械を消したときは、 常に消しておかなければなりません。
UDPKITを使えば、 彼の職場の機械を落とす前に、 そこからネットワークへメッセージを送り出すことができます。 電気の入っている機械なら、 メッセージを見て電源を切ります。 そうでなければ、 メッセージは宙に消えるだけです。
それと比較して、 プロトコルにTCPを使うと、 職場の機械は、 他の機械との接続を初期化しようとします。 機械がついていれば、 大きな違いはまったくないでしょう。 ところが、 ついていなかった場合、 職場の機械は、 他の機械が応答するか、 つくまでの間、 待たされることになります。
つまりUDPKITは、 メッセージが不特定に送られ、 どこに送られたかや送られたかどうかは、 知る必要のないような状況で、 特に便利なわけです。 誰が聞いているか、 あるいは聞いている人がいるかどうかはっきりしない、 という意味で、 この状況は、 ちょっとラジオに似ています。
実際、 このプロジェクトは、 フランス版Debianのリストからそんなプロジェクトをさがしていて、 見つけることのできなかったアマチュア無線家のアイデアから始まりました。
古典的なUnixの方法論で目を養いつつ、 コマンド行や、 シェル・スクリプトで使えるふたつのツールを提供すべく、 UDPKITは、 ISOのCで書いてあります。 作者の目から見て、 これがこのプロジェクトの特長です。
このプロジェクトは、 GNU General Public License (GPL) の下でFree Softwareとして公開され、 現在の0.6版では、 すっかり安定しています。 今後の予定は、 プロジェクトの国際化と、 CRCチェックサムの実装です。 Debianのパッケージも、 きっとすぐ出るでしょう。
こういった課題、 特に検査への手助けは、 大歓迎です。
Rio-Conferenceともいう "UN Conference on Environment and Development" 世界サミットのことは、 新聞や夕方のニュースで、 多くの方がご存じでしょう。 それにたいして、 情報社会と世界的知識の構造を定義するため準備中の、 "World Summit on the Information Society" (WSIS) [6] は、 あまり有名でありません。
しかし、 知識への参加、 アクセス、 制御の問題は、 人間社会の未来を、 潜在的に形づくるものです。 もっとも、 「食糧や薬品のような基本的供給が、 安全確実でないうちは、 そんな質問は二の次だ」 といみじくも人は言うでしょうが、 最低限の供給が現実になるにつれ、 このことは非常に重要になります。
またときとして、 知識へのアクセスは、 基本的供給を支える手助けにもなりえます。 あるいは、 アフリカのLouise Szenteいわく 「『暗黒のアフリカ』に住む今日の学生生活は、 悲痛な事柄である。 なぜならまだ、 明らかに世界の奴隷宿舎にとられられているのであるから。 不快な言い方? 友よ。 Intellectual Property Acts (訳注: 知財法) のような『法律』が、 生活の改善をじゃまするような社会に住んでみたまえ。」
これは、 Alan Story教授の研究からの引用で、 Commission on Intellectual Property Rights [7] のために書かれたものです。 この委員会は、 英政府の "Eliminating World Poverty: Making Globalisation Work for the Poor" という白書にさかのぼり、 開発途上の国ぐにの問題を中心に取り扱っていました。
Alan Story教授の研究は、 この委員会内の専門作業委員会である "Copyright, Software and the Internet" での議論の基本を提供しています。 もし詳細にご興味がおありなら、 作業委員会のプロトコル、 研究とその結果については、 委員会のウェブ・サイト [7] で、 まだオンラインになっています。
知識社会と情報の規則と展望は、 2005年までに世界的な流れで定められるはずです。 後のち、 この合意に国家レベルでそむくことは、 かなり困難になるでしょうから、 このサミットの反響は、 いつか私たちに大きい影響があるでしょう。
WSISは、 二期に分かれます。 前期は、 今年の12月10日から12日まで、 ジュネーブで開かれます。 後期は、 2005年の7月15日から18日まで、 チュニス (訳注: チュニジアの首都) で開かれます。 ジュネーブ・サミットの準備に、 もう二度も予備会議 (いわゆる "PrepCom") が持たれています。 最後の予備会議 (PrepCom-3) は、 9月15日から26日までジュネーブで開かれます。
準備会議のない間は、 作業会議、 いわゆる「セッション間会議」があり、 ほとんどの文書作業がなされます。 最後のセッション間会議は、 UNESCOの主催で、 7月15日から18日までパリで開かれ、 コメントや付録の付き過ぎでふくらんで読めなくなっていた文書が、 簡潔、 正確、 明解になりました。
米国についてのことがらとしては、 政府だけが、 公式のWSISや、 その関連会議への完全に信任させた参加者であることが、 あげられます。 政府代表派遣の一部として、 企業の特使が入ることは、 こういう場合、 比較的よくあることではありますが。 特定の知識が必要なほど非常に複雑な分野では特にそうですが、 大企業には、 自社の方針を実現するための方法がいつも多くあるものです。
内部情報によると、 たとえば、 国連レベルの別なフォーラムであるWIPO ("World Intellectual Propert Organization") の場合、 直のMicrosoft代表が、 たいてい多く米国特使に含まれています。
業界団体において、 中小企業はわずかな影響力しかありませんし、 そこでも大企業は大きな影響力をもっています。
政治的処理の3本目の柱は、 いわゆる市民社会です。 この用語は一般に、 公衆の意見を代表したり、 形づくったりする大きな一翼として、 全非政府組織を含んでいます。 これには、 教会、 組合 (union)、 学校、 財団、 同好会が入ります。 Greenpeace、 WWF、 そしてFree Software Foundation (FSF) のような組織は、 市民社会の典型例です。
国連の階層内では、 市民社会は、 伝統的に困難な位置にありました。 WSISの準備会議では数度となく、 部屋から締出しさえ食らい、 情報時代を形づくる考察に耳を傾けることもできませんでした。 とはいえ、 大部分の政府は、 これは間違いだったと考えているようですが。
しかし、 市民社会を含めるのもいまだ困難です。 というのも、 議題の論議のほとんどに話す権利をまだもっていないからです。 たとえばパリでは、 全市民社会が特使らに話す時間は、 午前中の30分でした。 一般的なコメントは可能ですが、 議論の大部分に参加するには不十分です。
政府の中でも、 市民社会をうまく取り入れているのは、 WSISの処理で経済労働省 (BMWA) が代表になっているドイツ政府です。
計画会議で、 経済の代表 (この場合、 BITKOM代表としてのSiemensの Rainer Händel 博士) だけでなく、 ドイツ市民社会の代表も、 パリへのドイツ政府特使に加わることが、 合意されています。
WSISに向けたドイツ市民社会の調整会が、 ドイツ特使に参加すべき候補の、 順位つき一覧を、 その会の任務として、 作成しました。 結局、 FSF Europe代表の (そしてこのコラム作者の) Georg Greveが、 ドイツ政府特使と認められました [8]。
ドイツはこれで、 スイスやデンマークとならび、 WSIS処理へ公式に市民社会を含む、 数少ない国のひとつとなったわけです。
セッション間会議でのできごと全部の詳細報告は、 明らかにこのコラムの範囲を越えています。 しかし、 少なくとももっとも重要な議論は、 ここで紹介しておくべきでしょう。
一番熱く議論された問題は、 「通信権」また「通信する権利」です。 多くの国ぐに、 たとえばエジプト、 中国、 米国は、 こういった権利を体系化することを、 雄弁に否定しています。 ブラジルだけが、 通信権についてあからさまに支持を表明しています。
体系化を否定する国ぐには、 そのような権利がよそでは定義されてないこと、 WSISは新しい人権を定義するための仕度をするところではない、 などと論じました。
論文の上では存在する権利を、 情報技術が損ねてしまう可能性を、 こういう人たちは理解していないようです。
この例は、 European Copyright Directive * (EUCD) と、 米国でそれにあたる Digital Millennium Copyright Act ** (DMCA) で、 いずれも公正利用の権利 [9] を損なう可能性のある世界貿易機関 (WTO) のTRIPS合意にさかのぼるものです。
* **訳注: しいて訳せば、 欧州著作権指令と、 デジタル千年紀著作権法。
「技術的保護計測」ともいう線を交差させるために、 法廷に告訴される違反者、 このような技術の提供者は、 以前の公共空間を支配し、 民主的な立法の支配から除去する力を与えられました。
たとえばDMCAは、 Scientology 批判のウェブ・サイト検閲の土台を提供しています。 こういったページで提供される情報は、 技術的保護計測だけで入手できるからです。 つまり、 DMCAへの違反をつうじてのみ、 捕捉できるわけです。 思い切って言ってしまえば、 DMCAとEUCDはともに、 公共生活の基本分野で、 民主主義を、 企業の支配する技術主義国家で置き換えてしまうのです。
世界人権宣言 (UDHR: Universal Declaration of Human Rights) [10] の19条では、 「すべて人は、 意見及び表現の自由に対する権利を有する。 この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、 また、 国境を越えると否とにかかわりなく、 情報及び思想を求め、 受け、 及び伝える自由を含む。」 と宣言しています。
これらの権利は、 媒体への支配にますます依存しているので、 すべての人間に文化的な生活を営む権利を与える27条を、 骨抜きにするのと同じ危険があります。
通信権を明白に述べることは、 新しい権利を定義することではなく、 既存の権利を技術主義国家の浸食から保護することなのです。
ふつう「知的所有権」といわれている、 産業的情報支配の分野には、 多くの議論があります。
多くの側、 特に米国や、 パリ以前の調整会議でのドイツ法務省もそうでしたが、 この分野からWSISを完全に追い出そうとしていました。 それは、 特にWIPOやWTOのような他組織が、 この分野を取り扱っていたからです。
もしそうなっていれば、 WSISは失敗ということだったでしょう。
情報や知識の支配の問題は、 明らかに知識や情報社会の中核ですので、 この問題は、 きれいに分けられません。
インターネットがあるにせよ、 ないにせよ、 権利を保持している産業によるひたむきな興味の追求だけでなく、 芸術家、 著作者、 全体としての社会 ――特に開発途上の国ぐににいる―― の分野の立法改訂ぬきでは、 貧富の差は大きくなる一方で、 また金融的に強い国ぐにでは、 それがさらにはっきりとしてきます。
これらは議論された話題のうち、 たった2つにすぎません。 もしご興味があれば、 パリ・セッション間会議中の時事、 政治潮流の詳細報告が、 FSF Europeのウェブ・ページ [11] にあります。
幸い、 こうして、 この話題の重要性についてお知らせすることだけは、 私にできました。 実際、 この分野の取組には、 スタミナ、 欲求不満にたいする耐久力、 そしてかなりの労力が必要です。
社会で生活する個人として、 もし漫然と過ごすならば、 こういったことがらに取り組む「だれか」をあてにしている余裕は、 まったくありません。
この分野で活動している全組織は、 さまざまなやり方での手助け ――「単なる」公開展示であっても―― を必要としています。
参加の方法にはいろいろあり、 とりわけFSF Europeの接点としては、 たぶん議論用のリスト [12] がそうです。 もしWSIS処理に直に参加したいようであれば、 ウェブ [http://www.wsis-cs.org13] でも情報が見つかるはずです。
そしてもちろん、 この作業もお金が頼りです。 旅費だけをとっても、 多くの活動家が、 自腹を切っています。 私のパリ旅行については、 かなりを寄付してくださった Böll-Foundation 同様、 ほとんどの旅費をまかなってくれたLinux-Verbandのおかげで、 機会を得ることができました。
ドイツにお住まいの読者には、 この問題を扱える見込みがまだあります。 ドイツはベルリンで最近、 デジタル社会市民権財団のbridgeが設立されました [14]。 設立者は、 Frank Hansenで、 まさにこの問題意識を高めるために、 この財団を始めるべく、 Bewegungsstiftung (「運動財団」) にも協力をしています。
最初の行動として、 アイデア募集が始まりました。 2003年10月1日まで、 デジタル領域で市民権低下の潜行に対抗するキャンペーンの開始や、 計画についてのアイデアを、 どんな団体、 個人でも提案できます。
最良のアイデアは、 2003年11月1日、 審査員から発表され、 キャンペーン実現のため、 最大で1万5千ユーロが贈られます。
これはまさに変化を生む可能性を提供し、 多くのアイデアが提案されることが期待されます。
やや興味深いヨーロッパのこの夏よりお届けしたBrave GNU Worldは、 このへんで。 いつもどおり、 みなさんにコメント、 ご質問、 お考えをいつものアドレス [1] へお伝えいただけるようお願いしておきたいと思います。
特に、 Free Softwareの作者の方がたは、 ご自分のプロジェクトをお伝えください。 他の多くの人たちにとって興味深いプロジェクトというものは、 大きい必要はありませんし、 完了している必要もありません。
それではまた来月、 お会いしましょう。
情報
|
[1]
意見、
批判や質問は
Brave GNU World <column@brave-gnu-world.org>
まで
[2] GNUプロジェクトのホーム・ページ http://www.gnu.org/home.ja.html [3] GeorgのBrave GNU Worldのホーム・ページ http://brave-gnu-world.org [4] 「We run GNU」イニシアチブ http://www.gnu.org/brave-gnu-world/rungnu/rungnu.ja.html [5] UDPKITダウンロード http://www.sylvain-nahas.com/ [6] World Summit on the Information Society http://www.wsis.org/ [7] Commission on Intellectual Property Rights http://www.iprcommission.org/ [8] WSISについてのプレス・リリース http://mailman.fsfeurope.org/pipermail/press-release/2003q3/000052.html [9] Initiative "Rettet die Privatkopie!" (「公正利用を救え!」) http://www.privatkopie.net/ [10] Universal Declaration of Human Rights: http://www.un.org/Overview/rights.html [11] WSISセッション間会議の報告 http://fsfeurope.org/projects/wsis/debriefing-paris.en.html [12] FSF Europe http://mail.fsfeurope.org/mailman/listinfo/discussion [13] World Summit Civil Societies http://www.wsis-cs.org/ [14] bridgeホーム・ページ (ドイツ語) http://www.bridge-ideas.de/ |
GNUのホーム・ページにもどる。
FSFやGNUについてのお問合せ、 ご質問は、 (英語で) gnu@gnu.orgまで。他のご質問は、 (英語で) gnu@gnu.orgまで。
Copyright (C) 2003 Georg C. F. Greve日本語訳: 飯田義朗
Permission is granted to make and distribute verbatim copies of this transcript as long as the copyright and this permission notice appear.
(著作権と上の許可告知のある限り、 この写しの逐語的な複製をとって、 配布する許可を認めます。)Last modified: Fri Aug 8 15:43:56 CEST 2003