新居のネットワーク設定もやっとおわり、 みなさんをGeorgのBrave GNU Worldの記事に歓迎しようと思います。 私は、 技術的、 政治的かつ哲学的な面をあわせもった、 興味深い話題を見つけたような気がしています。 まずはフランスからの悲しいニュースからはじめましょう。
Nicolas Georgeからの手紙によると、 Brave GNU Worldの第12号にのせた法案は、 若干の議員に「自由競争への脅威」といわれ、 否決されました [5] 。 代案は「オープン標準」について述べ、 「Free Software」として理解されるべきではない、 とあからさまに明示しています。 William Steve Applegateが議事録について私に教えてくれた話によると (みなさんご存じかもしれませんが、 私は仏語を読んだり話したりしないのです)、 その提案では、 ソース・コードを入手可能にすること --ただし政府にたいしてだけ-- について述べています。
Free Softwareを使ったり開発したりしたからといって、 締出しをくらうようなものなど何もありませんし、 商用のFree Softwareの成り立つことも何回も証明された以上、 「自由競争にとっての脅威」とは明らかに根拠のない、 いいがかりのたぐいだといえます。 この提案は、 Free Softwareを進化させたものであるかのような体裁をととのえているのですが、 独占ソフトウェアに裏口をあけたままにしようという意図が見てとれます。 そのため、 フランスのFree Software組織のAPRILが提案 [6] に反対しているのです。 明らかにフランスの議員たちはFree Softwareの重要性を認識し、 自分たちのためにはソース・コードへのアクセスを要求する一方、 代表すべき選挙人からはこの自由とセキュリティーを「保護」しようとしています。 この状況はどうしても受け入れられないので、 読者のみなさんにはこの提案へ反対してもらい、 一般大衆には興味をもってもらいたいわけです。
しかし幸いにも、 フランスからよいニュースもあります。 フランスにおけるGNU General Public Licenseの適用可能性にかんする研究 [7] について、 David Mentreが私に教えてくれました。 その研究は基本的に、 GPLが特に問題なくフランスに使える、 という結論にいたっています。
さて、 技術面にいきましょう。 まずは、 注目すべきワープロ・プロジェクトにかんする機能です。
Thomas Schmicklによるe:doc [8] は、 一見LaTeX版下システム用のグラフィカル・ユーザー・インターフェースである「Mini-Lyx」のようです。 が、 それどころではないのです。
e:docとは、 無数のバックエンドから任意のものを選ぶことのできるWYSIWYMフロントエンドです。 ただし、 ここでの「バックエンド」とは、 バックエンドが配布物件にすでに含まれるようなLaTeXやHTMLといった出力形式をさします。
ユーザーは、 テキストや構造を入力し、 e:docで整形後、 すきな形式で出力します。 テキストは、 全拡張情報を保持するe:docの内部形式で保存されます。 引用、 参考文献一覧や参照、 そして、 ラベルといったタグ間の相互作用が、 拡張情報に含まれます。
e:docは、 そのモジュラー概念により非常に強力です。 内部の文書構造の定義は、 バックエンドと無関係になっていて、 可能な出力形式に注意をはらわず拡張ができます。 そのため、 ありえる最良な方法での出力形式に変換できる特別な特性を、 非常に簡単に文書にあたえることができます。 文書を修正せずにほかの出力形式をくわえることも、 もちろん簡単にできます。 OS固有のオプションや個人設定も、 別の簡単で快適なカスタム化用の場所で構成できます。
e:docは幸い、 UnixでもWin32配下でも動き、 ファイルの交換も簡単です。 見た目が共通でなければならないのにほとんどの人々はLaTeXが苦手、 というような職業分野での利用は、 これで完璧になります。 作者自身は、 出版社、 新聞社、 科学者を最も重要な対象者とみています。
機能性がもう少し包括的になり次第、 e:docを公式のGNU Projectにすることが計画されています。 これはそんなに長くはかからないでしょう。 とはいえ、 e:docはGNU General Public Licenseの下で配布されるので、 ユーザーにとっていえば、 これは大した問題ではありません。
Thomas Schmicklは、 e:docの計画をまだたくさんもっています。 しかし彼は、 ミツバチの実験に取り組む生物学者として生計をたてているので、 時間がとても足りずに困っています。 Tim Stevensが最近彼を手伝い始めましたが、 なすべき作業はまだ多過ぎ、 さらに多くの開発者を募るよう私は頼まれました。 特に「Perlプログラマ、 LaTeX導師、 HTMLデザイナ、 ネーティブ・スピーカ」(本人談) は、 必要とされています。 もしあなたが上記のカテゴリーのうちの1つに属し、 開発への参加に興味があれば、 Thomas [9] に直接メールを送るとよいでしょう。
GNU Parted [10] は、 おなじみのfdiskと似た、 ハード・ディスクの分割プログラムです。 しかし、 GNU Partedは、 パーティションを単に作成、 削除するだけでなく、 移動や複製もし、 またそれがExt2、 Linux SwapかFATパーティションであれば、 データをなくさずにサイズを変更できます。
もし他のGNU/Linux配布物件用に場所をあけるためにハード・ディスクを整理するのが目的なら、 「Partition Magic」のような独占のWindowsプログラムをなくすことができます。 のみならずPartedは、 いわゆる「ディスク・イメージ」もとれるのです。 つまり、 1台の機械に OS、 ソフトウェア、 構成情報、 全てを事前インストールし、 その後、 1枚かそれ以上のCDにパーティションを書くわけです。 最小のGNU/LinuxとGNU PartedをCD上に焼き、 それをブートできる状態にすれば、 非常に簡単かつ快適にこの設定を他の機械に転送できるようになります。 もちろん、 何らかの理由で構成情報が失われてしまったときは、 これを元に戻すこともできます。
この目的のためにもっといいプログラムやGNU/Linuxがあるので、 Windowsインストールは、 作者におもに倫理的ジレンマを引き起こしたものですが、 GNU Partedは、 このギャップの埋め合わせをしてくれます。 Windowsをインストールする人々を彼は本当に助けるべきでしょうか? これについての彼の意見は、 Windowsユーザーにとって少しずつFree Softwareへのりかえるのがもっと簡単になることにあります。 したがって彼の答は、 イエスでした。 特に大きい会社について、 これは、 たぶん現実的な観点です。
ext2resizeやDiskDrakeプログラムと、 GNU Partedとの間の関連も、 とても興味深いものがあります。 DiskDrakeは、 早期のGNU Partedからの派生版で、 欠けた機能が若干あるものの、 インターフェース ---Andrew Clausenによると、 GNU Partedになくて大きな問題のうちの1つ--- は、 なかなか良好です。 ext2resizeとの関係は、 もっと緊密です。 なぜなら、 両プロジェクトではExt2のコードを共有しているからです。 マウント中のパーティションのサイズの変更といった若干の追加機能が、 ext2resizeにはあります。
GNU Partedの全機能は、 libpartedライブラリーで実行されます。 ですので、 最大の弱点 (GUI欠如) の修正は、 むしろ簡単でしょう。 これ以外の今の課題は、 現在の開発版の安定化、 Macintosh、 Sun、 BSDディスク・ラベルへのサポートのとりこみ、 ディスク・イメージのサポートの最適化などです。
彼が今メルボルン大学で研究している間、 Conectiva LinuxがGNU Partedの作業にたいする支払いをしているので、 GNU Partedの将来は、 非常に明るいように見えます。 私には、 こういうことがだんだん普通のことになってきているように思え、 この傾向にとても満足しています。
GNUの特定のプロジェクトへの作業をしている開発者へ支払いをすることで、 企業がGNU Projectに参加します。 開発者はこのため、 別の方法で金を稼ぐ必要がなくなります。 GNU ProjectやFree Softwareを直接サポートしつつ、 企業は、 その仕事に最良の人をあて、 直接、金の流れを制御できます。
これもまたFree Softwareコミュニティーへのサービスなので、 このように運用する会社の「グリーン・リスト」について、 私は考えてきました。 このリストの補助によって、 再びコミュニティーを間接的に強くするため、 エンドユーザーは、 そういった会社を優先することができる。 これについてのアイデア、 質問、 コメントは大歓迎です [1] 。
ところでみなさんは、 そのような会社を見つけに、 オーストラリアに行く必要はありません。 6月初旬以来、 学位をとるまでの間、 私は最新のProject GNU AWACSでの作業に、 iD-Pro Germany GmbHから支払いを受けています。 ただこのおかげで私は、 GNU AWACSにうちこむことができます。 このように働く会社の量がどんどん増えていることは、 すばらしいことです。
次は、 OKUJI Yoshinoriから話すように頼まれたことです。
Brave GNU Worldの前の日本語訳者で、 長い間GNU Projectの現役のメンバーであるOkujiは、 私にTexinfoの重要性について述べるよう頼んできました。 第9号でも少し書いたのですが、 利用者にとってのTexinfoの意味についていくつか書いておくことは、 差支えないだろうと思います。
Texinfoの背後の思想は、 Texinfo形式の単一ファイルをもつことにあります。 TeXとこのファイルの類似点が、 (明らかに) 必要です。 利用者は、 多大な努力や時間を節約してくれるファイルを1つ管理しなければならないだけです。 このファイルは、 いろいろな出力形式の作成に使えます。 これには、 info形式をはじめ、 HTML、 プレーンASCII、 PDF、 ROff、 DVI (したがってPostScriptも) の各形式を含みます。 これは、 文書が最適な形式でとなりに簡単に配布でき、 コンピュータ上でオンラインの閲覧もできるということを意味します。
infoファイルは、 利用者によって最初、 いくぶん変に見えるかもしれません。 ですがこれは構造化され、 リンク経由でトピックの間を跳ぶことを可能にする、 という大きな利点を提供します。 ところで、 「info」プログラムを使わなくても、 infoファイルを見ることができます。 EmacsにはすばらしいInfoモードがありますし、 pinfo、 tkinfo、 GNOMEのヘルプ・ブラウザの各プログラムがinfo対応です。
Texinfoは、 よく言われる利点のためGNUの文書標準になりました。 TeX風な構造のせいでがっかりする人もいるかもしれませんが、 修得につかった時間も、 後になれば、 たいてい節約できているのは間違いありません。
オーストリアからのThomas Pollakからだされた問題について論じ、 今号をしめくくりたいと思います。
私はこれや、 これに類する質問を今までずいぶん聞いてきたので、 ここでそれに答えておく方がいいと思います。 基本的質問は、 こうです。 「他の誰かの著作権を消し自分の名前に書き換えることから、 作者をまもるものは何かですか?」 この質問は、 非常によく次といっしょにきかれます。 「GPLは、どうやってそれを防ぐのですか?」
なぜGPLにこの件について明示した段落がないのかについて、 最初に取り組ませてください。 一般に受け入れられた(訳注: 米国の)著作権法は、 他の誰かの労作をあなた自身の名前で配布するのを違法の状態にし、 GPLではコードにライセンスを固定するためこの著作権法を使います。 さらにライセンスでは、 いつも許可することに集中し、 可能なことや禁止していること全部についてはめったに書いてないでしょう。
では「著作権でっちあげ」のありがちな危険について見てみましょう。 これを扱うとき、 問題を2、 3提起しなければなりません。 まず第一に、 Free Software生産での直接的な金銭的利得は、 むしろ少ない点です。 金銭のほとんどはサポートで調達され、 著作権問題はこれとは完全に無関係です。 では、 なぜ人は、 著作権をでっちあげようとするのでしょうか? プログラムを書いたことでできる威信には危険をおかす価値がある、 と考える人がいるかもしれません。
もしだれかがそれを実行したら、 何が起こるでしょうか? 実際のプログラムは他の誰かが書いたのですから、 「捏造者」はそれをどこかしらから調達しなければなりません。 ありがちなのは、 コレクションのCDや、 インターネットで、 プログラムを配布するのは簡単です。 ところが、 コレクションのCD、 WWWやFTPサーバーのバックアップ全部から、 コピー元を消すのは、 不可能です。 ここでのおまじないは、 「広範囲にわたる配布物件」です。 したがって、 プログラムの以前の版が他の著作権の下にあった、 ということは簡単に証明できます。
これは、 捏造者の評判が落ちるのが確実ということで、 そんな危険をおかす人がいるのかどうかは、 非常に疑問です。 それで私は、 この危険は小さい、 と思うのです。
では、 今月はこの辺にして、 私はオートバイで周遊し、 すばらしい天候を楽しむつもりです。 あなたの質問、 お考え、 コメントやプロジェクトについては、 いつものようにお送りくださいますようお願いします [1] 。
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日本語訳: 飯田義朗
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Last modified: Fri Jul 7 14:55:08 CEST 2000